住まいの騒音トラブルについて
人が日常暮らしていく中で多少の生活音が生じることは避けられないものです。
それが「お互い様」といえるような常識的なレベルであれば問題はないのですが、音の大きさや時間帯によっては近隣に大きな迷惑となり、その結果、騒音トラブルが生じてしまいます。
特にマンションなどの共同住宅では、両隣だけでなく、階の上下間で騒音トラブルが生じやすくなります。騒音トラブルが話し合いで解決できずにこじれてしまうと、裁判など法的手続で決着することになり、その騒音が近隣の生活を妨害していると判断されれば、騒音の差し止めや損害賠償といった法的責任が生じることになります。
「騒音」といっても、その種類は様々ですし、具体的な環境によって受け止め方も異なるものなので、一体どれくらいのレベルに達すると法的責任が生じるのか、客観的な基準(限界例)を定めるのは難しいのですが、一般的には、「受忍限度」を超えたかどうかで判断されると言われています。
そして、その「受忍限度」を超えているかどうかを判断するにあたっては、
〜音被害を受けている側の事情(どのような被害を受けているか)
◆〜音を出している側の事情(騒音の程度・種類、騒音の原因となる活動の必要性、騒音防止・緩和のための対処・努力)
地域性(環境、地域における行政上の規制内容)
ぁ〜音の原因となる活動を差し止めた場合の損失
といった事情を総合的に判断することになります。
ところで、騒音トラブルは近隣住民同士に限らず、地域住民と企業との間で生じることもあります。例えば、企業の工場や作業所など、業務活動上、必然的にある程度の騒音が生じる施設が住宅地の近辺に設置された場合、騒音トラブルが起こることが少なくありません。
最近の裁判例として、平成24年2月20日さいたま地裁熊谷支部判決があります。この事案は、ある会社の代表者が、日系ブラジル人の子どもたちのための教育施設を開校し、その一環としてフットサル場(一般市民にも公開)を設立したところ、近隣住民の一部が、騒音被害を理由に、慰謝料の支払いと、防音措置および利用制限を求めたというものでした。
これに対して、裁判所は、「本件騒音の程度、種類・性質、原告ら(住民)の被害の内容・程度、本件の経緯、本件騒音低減のために被告(会社代表者)が行ってきた措置等、土地利用の先後関係、原告ら以外の近隣住民の反応、本件施設の公益性ないし社会的価値等の観点から、本件騒音が受忍限度内のものであるかどうかを検討する」として、これらの諸事情を具体的に検討しています。
具体的に検討された内容は次のとおりです。
(1)騒音の程度
政策目標である環境基準(55デシベル)を若干超えているものの、普通の会話(約60デシベル)と同程度の音量であり、日常生活に重大な影響を及ぼすものではない。
(2)騒音の種類・性質
特に音量が大きいのはボールが壁等に当たる音、ゴール時の歓声・拍手、子ども特有の高い声くらいであり、騒音と感じるか否かは主観的要素が大きい。
(3)原告ら住民の被害の内容・程度
原告らの主張する体調不良の症状は本件騒音によるものとは限らず、また、本件施設の使用頻度の減少により騒音が低減している。
(4)原告ら以外の近隣住民の反応
苦情を述べておらず、原告らの署名活動にも参加していない。
(5)本件の経緯・被告の行ってきた低減措置
本件裁判の前後を通じて、被告が相応の費用を支出して防音工事を行い、問題とされていた大会の開催を中止するなど騒音低減のために努力してきたことを評価。
(6)土地利用の先後関係、本件施設の公益性・社会的価値
住民に先住性が認められるものの、本件施設は営利目的ではなく、一定程度の社会的価値が認められる。
以上のような具体的な検討の結果、裁判所は、本件騒音が受忍限度内にとどまるものとして、原告ら住民の請求を認めませんでした。
このように、騒音被害による法的責任は具体的な事情が検討されるため、事案によって結論は様々です。裁判で争うことは、お互い時間も手間もかかり、しかも結論が予測しづらいものです。できる限り、話し合いで解決できるよう、お互い相手の立場を尊重し、それでもなお話がまとまらないようでしたら、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士 渋谷元宏(しぶや・もとひろ)
しぶや総合法律事務所 所長 大阪弁護士会所属(2000年登録)
企業や個人の法的トラブルの交渉・予防策を中心に、企業・法人の役員、大学講師なども務めています。
【 本文記事監修: 住・空・間 編集部 】